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東京高等裁判所 昭和51年(ラ)10号 判決

抗告人

木下昌明

抗告人

飯野明子

抗告人

古瀬喜久男

右三名代理人

清水恵一郎

徳住堅治

相手方

株式会社教育社

右代表者

高森圭介

右代理人

音喜多賢次

山口邦明

渡辺修

山西克彦

主文

本件抗告をいずれも棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

事実

第一  申立

一  抗告人ら

1  原決定を取り消す。

2  抗告人らが相手方の従業員たる地位を有することを仮に定める。

3  相手方は、抗告人らに対し、それぞれ別紙賃金目録一の(一)欄記載の金員及び昭和四八年一一月二五日から本案判決確定まで毎月二五日限り同目録(二)欄記載の金員を仮に支払え。

4  申請費用は原審・抗告審を通じ相手方の負担とする。

二  相手方

主文第一項と同旨

第二  主張

一  抗告人ら

1  相手方は、小・中・高校生向け家庭学習教材(トレーニングペーパー。以下「トレペ」という。)等の編集、出版、販売を業とする会社である。

2  抗告人らはいずれも株式会社東京出版サービスセンター(以下「センター」という。)の会員であるが、センターの主たる業務は、得意先である出版社等の求めに応じて、必要人数だけの編集校正労働者を会員中から得意先に紹介供給し、会員がその労務提供の対価として得意先から受領する資金を会員に代わつて受け取つて一定率の手数料を徴収したうえで残額を会員に支払うという職業紹介的な労働者供給事業である。その場合、センターは、得意先に対し、会員を提供するのみで、仕事を請負うものではなく、仕事の完成について事業主としての法律上及び財産上の責任を負わない。そうして、センターの会員との接触は、得意先を電話で紹介するとき及び賃金を支払うときのみであつて、会員に対し労務管理は一切行なわず、会員が得意先の紹介を受けていない期間の賃金補償をすることもなく、センター以外の仕事をすることについても特別の規制をなさず、税法上の源泉徴収、年末調整を代行するほかは、労働基準法上の労働時間・休日・休暇等の扱いや労働者災害補償保険・健康保険・厚生年金保険等の法律上の手続も行なわないし、校正についての基礎知識の研修、訓練や資料、資材の提供もしない。すなわち、センターと会員との間に雇用関係は存しないし、得意先とセンターとの間の請負関係も存在しない。

3  抗告人飯野は昭和四五年九月一八日に、また、抗告人木下は同年一〇月二九日に、センターの紹介により相手方会社に赴き、相手方との間で、勤務時間は午前九時三〇分から午後五時まで、賃金は一時間当たり五〇〇円、超過勤務の場合には二割五分増、休日深夜は五割増として計算した月額を支払う、勤務場所は相手方トレペ編集室小学校部門、業務内容は主として校正業務を担当すること等を定めた期間の定めのない労働契約を締結し、小学校部門の主任である坂口允から作業の指示を受けながら就労し、昭和四七年一〇月二一日まで勤務した。また、抗告人古瀬は昭和四六年六月一日、センターの紹介により相手方会社に赴き、相手方でトレペ編集業務を担当して勤務を始めたが、同月一六日からコンピューター編集部門に配転となり、遅くとも同日以降は、勤務時間は午前九時二〇分から午後五時まで、賃金は一時間当たり七〇〇円として、同編集部門で主としてクライト作業を担当する旨の期間の定めのない労働契約を締結して勤務を続け、昭和四七年一〇月二一日に至つた。

相手方は、抗告人らを使用するにあたつて、自己の支配する職場において、他の従業員と共同で自己の監督指揮する作業に従事させることを予定し、抗告人らの労務の提供時間に応じて一定額の対価を支払うこととしていたし、抗告人らも、右のような従属的労務提供により時間給の支払をうける前提のもとに、相手方の支配下で勤務することを承諾して、相手方の正規の従業員と一体となつて相手方の作業の流れに組み込まれ、企業全体の指揮命令系統のもとに編成され、場所的時間的拘束をうけて労務を提供していたのである。したがつて、仮に抗告人らと相手方との間に明示の労働契約の成立が認められないとしても、実質的な使用従属関係下での労務の提供・受領の事実関係がある以上、その間の黙示の契約に基づく直接的な労働関係が発生していたものとみるべきである。

4  相手方は、仮に抗告人らと相手方との間に労働契約関係が発生したとしても、昭和四六年一〇月二一日以降は消滅していると主張する。

しかし、抗告人らが右契約関係の解消を合意した事実はない。相手方とセンターとの間の合意は抗告人らとは無関係で、その効力が抗告人に及ぶ理由はない。

相手方主張の時期に、労働契約関係を一方的に消滅させる解雇の意思表示があつたとしても、相手方は右意思表示に際し、三〇日間の予告期間を置かず、かつ、予告解雇手当も支払つていないので、右意思表示は労働基準法二〇条に反し、解雇の効力を生じない。しかも、相手方は、昭和四七年二月二三日三鷹労働基準監督署から解雇予告手当を支払うように是正勧告がなされたのちにも、これに従うことを拒否し、即時解雇に固執している。

相手方は、抗告人らの解雇にあたつて理由らしい理由は全く示さなかつた。相手方が抗告人らを解雇した理由は、当時教育社労働組合と相手方との間に発生していた労働争議に対し、抗告人らが中立的立場をとり、早く争議を解決するよう両当事者に要請し、会社側のスト対策に協力的でなかつたことにあると考えられるが、抗告人らが中立的立場をとらざるをえなかつたのはやむをえないことであり、しかも争議の責任はあげて会社側にあるのであつて、相手方が自己の非を省みず抗告人らの不協力を責めることは許されない。したがつて、相手方の解雇は解雇権の濫用に該り、実体上もその効力を生ずるに由ないものである。

5  相手方は、昭和四六年一〇月二二日から抗告人らを従業員として取り扱わず、賃金を支払わない。しかし、抗告人らはいずれも労働者として収入を得るほかに生計の途を有しない。

抗告人らは、相手方から、毎月一五日締切り翌月二五日払いの方法で昭和四六年七月一六日から同年一〇月二一日までそれぞれ別紙賃金目録二の(一)ないし(三)欄記載の賃金を受領してきた。賃金の一か月平均賃金は同目録(四)欄記載のとおりであり、右平均賃金に基づいて算定した抗告人らの昭和四六年一〇月二二日から昭和四八年九月一五日までの未払賃金は別紙賃金目録一の(一)欄記載のとおりとなる。

6  よつて、第一の一記載のような仮処分決定を求める。

二  相手方

1  抗告人らの主張事実のうち、相手方が小・中・高校生向け家庭学習資材(トレペ)等の編集、出版、販売を業とする会社であること、抗告人らがいずれもセンターの会員であり、相手方の求めに応じてセンターから相手方に派遣され、相手方の企業施設内で校正・編集等の仕事に従事していたものであることは認める。

2  相手方はセンターとの間で昭和四四年一一月に編集・校正業務の請負についての基本契約を締結した。その内容は、センターは出張校正、自宅校正、企画編集その他必要に応じて相手方が注文する業務をセンターにおいて受ける、このうち出張校正については随時人数を指定して発注し、何時にても打ち切れる、出張校正の料金は一時間当たり原則として四〇〇円とするが、難しいものは五〇〇円とする。ただし、平日午後五時以降は五割増し、一〇時以降はさらに三割増しとする、最低予約拘束時間は五時間とし、一日五時間以内は、たとえ一時間でも五時間分の料金とする、料金は毎月一五日に締切り、翌月二五日に支払うというものであつた。その後昭和四六年にセンターからの要請に基づき、出張校正の単価を四〇〇円から五〇〇円に引き上げ、その際、五時以降の割増料金の率を五割から二割五分に引き下げることに変更された。

3  抗告人木下は、センターの会員として、昭和四五年九月一六日から同年一〇月一五日までの間の何日かに相手方に派遣され、「教育ノート」編集室において合計四二時間仕事をしたのち、同年一〇月二九日から再度派遣されて、トレペ編集室小学校部門で出張校正を担当するようになつた。抗告人飯野は、センターの会員として、昭和四五年九月一八日から相手方に派遣され、トレペ編集室小学校部門の校正を担当するようになつた。抗告人古瀬は、センターの会員として、相手方に派遣されて、昭和四六年六月一日から同月四日まで及び同年九月から同年一一月までの間トレペ編集室小学校部門の校正を担当したのち、たまたまコンピューター講座編集室で校正の仕事が生じたので、センターに発注したところ、同人が派遣され、同月一六日以降コンピューター講座関係の仕事をするようになつた。

抗告人らの派遣は、いずれもセンターと相手方との間の前記基本契約の履行としてなされたもので、相手方と抗告人らとの間には雇用関係はもとより直接の契約関係は一切なく、抗告人らはセンターの履行補助者として、相手方がセンターに注文した業務を現実に代行していたにすぎない。

センターからの校正員は、或いは継続的に或いは断続的に或いは短期間散発的に派遣され、顔触れは逐次交替し、相手方とセンターとの取引が開始された昭和四四年一一月一五日から取引終了の昭和四六年一二月一五日までの間の出張校正員の数は五九名に及び、各校正員の派遣期間は様様で、ある程度継続している者についても、中間に適宜非従事の日又は期間がある。抗告人らは、これら入れ替わり立ち替わり派遣されてきた多数の出張校正員の一部に過ぎず、抗告人らと他の出張校正員とで法律上の関係を別異に解すべき根拠はない。出張校正員が派遣される都度相手方と雇用関係を持ち、雇い入れ、解雇を繰り返したとみるのは常識に反する。センターから会員に支払われる金員は「編集料」又は「校正料」であつて、賃金や給与ではなく、会員は各々事業主として年末に事業所得の確定申告をしており、税務署に提出する申告書の職業欄には「校正業」又は「文筆業」と記載している。

抗告人らと相手方との間には、抗告人らの主張するような黙示の労働契約関係も存しない。明示もしくは黙示の合意もないのに、事実上の就労関係への組入れのみによつて労働契約関係が創設されるなどという議論は、現行法律秩序と相容れない独自の見解にすぎない。

4  仮に抗告人らと相手方との間に何らかの法律関係が生じていたとしても、それは合意解約もしくは解除によつて既に消滅している。

教育社労働組合が昭和四六年九月から同年一〇月にかける波状スト、サボタージュ闘争を繰り返したため、トレペ編集室での仕事はできなくなつたので、同年一〇月八日、相手方の高森社長からセンターの市川社長に対し、更に同月一八日、市川の同行した抗告人らに対し、従来の編集室ではトレペの校正はできないので会社の指定する場所へ行つて仕事をするよう、それができないのであれば仕事がないので引き揚げるよう申し入れたところ、抗告人らは、同月二一日、別の場所で働くことはできない旨の返事をして会社に来なくなつたのであるから、抗告人らと相手方との間の法律関係は合意解約によつて終了したものというべきである。特に抗告人古瀬については、争議と関係のないコンピューター講座編集室で仕事をしていたのに、トレペの校正員と行動を共にして自分の方から来なくなつたのであるから、事態は一そう明白である。

のみならず、抗告人らと相手方との関係は、仮に何らかの直接の法律関係があつたにしても、使用者に対する従属性の程度は低く、請負と雇用との混合契約とみるのがせいぜいで、終身雇用を前提とする通常の雇用形態とは趣旨・内容を全く異にし、不特定多数の企業に順次派遣されることが初めから規定されていたものであるから、この法律関係を解除するにあたつて、一般の解雇と同様の正当性を要するものと解すべき理由はない。したがつて、相手方がセンターの市川社長を通じて解約の意思表示により、右法律関係は解消されたものと解しうる。

第三  証拠〈省略〉

理由

一抗告人らは相手方との間に明示ないし黙示の労働契約が締結されたと主張するのに対し、相手方は、これを争い、抗告人らは抗告人とセンターとの間に締結された出張校正請負契約に基づきセンターから派遣された校正作業担当者であつて、抗告人らと相手方との間に労働契約はないと主張するので、判断する。

1  抗告人らは、まず、抗告人らと相手方との間の使用従属関係に照らせば、両者間に労働契約関係が成立していたというべきである旨主張するが、労働契約も一般の契約と同様両当事者の意思表示によつて成立するものであるところ、抗告人らと相手方との間に明示の労働契約が締結されたと認めるに足りる資料は存在しないから、右主張は採用することができない。

2  そこで、次に、抗告人らと相手方との間に黙示の労働契約が成立したかを検討する。

(一)  相手方が小・中・高校生向け家庭学習資材(トレペ)等の編集、出版、販売を業とする会社であること、抗告人らがいずれもセンターの会員であり、相手方の求めに応じてセンターから相手方に派遣され、相手方の企業施設内で校正・編集等の仕事に従事していたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

(二)  右の事実に、疎明資料(〈略〉)によると、次のような事実が一応認められる。

(1) センターは、昭和四三年一〇月一八日株式会社東京出版サービスセンターとして設立登記された会社で、出版物の企画・編集・校正業務の請負等を主たる目的とし、出版企画・原稿作成、レイアウト・校正(自宅及び出張)・リライト・イラスト委託出版等をその営業内容としていること、同社は、本店を東京都世田谷区鳥山町一三九七番地に、営業所を千代田区神田駿河台三の四、八興会館内に置き、取締役三名、監査役一名、事務系職員二名で運営され、その所属するいわゆる会員は、昭和四九年当時で約一二〇名に達していたこと、

(2) センターの会員となつている者は、編集・校正の技能を有し、特定の出版社・編集社に勤務することなくフリーの立場をとる編集・校正マンであるが、センターの会員となるためには、通常、出版社又は編集社に五年以上勤務し、かつ、プロの校正・編集マンとしての技倆を有することが必要とされていたこと、

(3) センターは、日常、営業案内やパンフレットを作成配布することによつて顧客を誘引し、注文がくるとセンターと注文者との間で話し合いをし、仕事の内容につき説明を受けて、出張編集・校正の場合には所要人数・時間数・期間及び料金を決定すること、注文者との間の話がまとまると、センターは、会員の技倆や都合を考えた上で人選を行い、選定した会員を注文者に差し向けていたが、この人選は専らセンターが行い、注文者は注文にかかる仕事を具体的に誰が担当するか、会員の名前を事前に知らされることもなければ、履歴を知らされることもなかつたこと、

(4) センターは、注文が出張校正の場合には、派遣会員に対して仕事の内容、期間、作業場等を説明し、会員は指定された日に作業所に赴き、注文者から更に具体的な説明を受けて作業に入るが、注文者が外部へ印刷に出す場合には印刷所が、注文者が社内に自らの印刷設備を有する場合にはその社内が作業場所であつたこと、

(5) センターは、現在までに、朝日、毎日、日経、産経等の新聞社、新潮社、東洋経済新報社、講談社、光文社、小学館、学習研究社、岩波書店、有斐閣、判例時報社、ダイヤモンドビッグ社等の各種出版社から、雑誌、年鑑、辞典、名簿等種々の編集・校正の仕事の注文を受け、会員を派遣するなどの営業実績を有すること、

(6) 相手方は、小・中・高校向け家庭学習資材(トレペ)等の編集、出版、販売を業とする会社であるが、昭和四四年一一月当時、トレペ編集国語企画室において仕事が詰つてきたので、相手方の従業員で以前センターに所属したことのある尾上進勇の提案もあつて、センターから編集・校正マンの派遣を受けることになり、そのころ、相手方代表取締役高森圭介とセンター代表取締役市川好治との間で基本契約が締結されたこと、右基本契約の内容は、出張校正・自宅校正・企画編集等相手方の注文する業務をセンターにおいて引受け、このうち出張校正については随時人員を指定して注文し、いつでも解約できること、出張校正の料金は一時間当たり原則として四〇〇円とするが難しいものは五〇〇円とする、ただし、平日午後五時以降は五割増し、一〇時以降は更に三割増しとする、最低予約拘束時間を五時間とし五時間以内は、たとえ一時間であつても五時間分の料金とする、自宅校正の場合は字数によつて料金を定める、料金の支払については、毎月一五日に締切つた分を翌月二五日に支払うというものであつたこと、右基本契約に基づき、相手方がセンターに注文した仕事は、後記のように抗告人らの担当した出張校正だけでなく、自宅校正(加藤栄貴が担当)もあり、編集や企画製作(臼井国雄が担当)など特別な注文を出す場合には、そのつど高森圭介と市川好治とで協議し、条件や料金等を取り決めていたこと、

(7) 抗告人木下は、昭和四五年七月ころ、センターに入会し、朝日新聞社、保健同人社、東洋経済新報社、平凡出版社、毎日新聞社に順次派遣され、相手方に派遣されてからも必ずしも継続的でなく、途中でダイヤモンドビッグ社に行つたこと、同人がセンターから相手方に最初に派遣されたのは昭和四五年九月一六日から一〇月一五日までの間の何日かで、教育ノート編集室において合計四二時間出張校正の仕事をし、それから約二週間を経過した同年一〇月二九日から再度派遣され、トレペ編集室小学校部門で出張校正の仕事をしたこと、

(8) 抗告人飯野は、昭和四五年九月ころセンターの会員となり、校正新聞社に派遣され、次いでダイヤモンドビッグ社に派遣されたが、同年九月一八日から相手方に出張校正員として派遣され、トレペ編集室小学校部門の校正を担当するようになつたこと、

(9) 抗告人古瀬は、昭和四五年五月ころ、センターの会員となり、報知新聞社、毎日新聞社、山と渓谷社、行政通信社、自由新報社、毎日新聞社、住宅新報社等に派遣された後、相手方に派遣され、昭和四六年六月一日から同月四日までの四日間と同月九日から同月一一日までの三日間、トレペ編集室小学校部門の校正を担当したが、その仕事はその限りで終了し、その後同月一六日以降コンピューター講座編集室での校正の仕事に従事したこと、

(10) 抗告人らが相手方に派遣された場合、出張校正の料金について抗告人らと相手方で直接交渉して決めるというようなことは全くなかつたこと、相手方は、昭和四六年三、四月ころ、センターの市川社長からの懇請により、出張校正の単価を四〇〇円から五〇〇円に値上げしたが、その際午後五時以降の割増料金の率を五割から二割五分に引下げたが、この交渉は相手方の高森社長とセンターの市川社長とによつて直接なされ、抗告人ら出張校正員はこれらの交渉には全く関与していないこと、抗告人らが相手方に派遣されてした出張校正の料金については、毎月一五日までに、前月一六日以降当月一五日までの作業内容、時間、交通費をセンター所定の報告書の形で抗告人らからセンターに報告させ、センターではこれを集計の上、相手方に請求書を発行して請求していたが、この請求は翌月二五日相手方からセンターに支払われるにもかかわらず、センターから抗告人らに対しては、合意に基づく一五パーセントの手数料と一〇パーセントの源泉徴収を差し引き毎月二五日に当月分として支払つていたこと、

(11) 抗告人らが相手方に派遣された際には、室長にセンターから派遣されてきた旨を告げるだけで、直ちに指示された校正の仕事に入り、履歴書・身上書を提出するというようなことはなく、面接選考を受けるとか、出張校正料金を相手方と直接交渉して決めるというようなことはないこと、相手方においては抗告人らセンターからの派遣校正員の出退勤の記録(出勤簿)を作成していたが、右記録は、相手方が派遣校正員の人事管理を行うために利用されるのではなく、センターから相手方に対する出張校正料金請求の正否を検討する資料として用いられるにすぎなかつたこと、抗告人らは相手方正規従業員と一緒に就労し(ただし、始業時は一般的には正規従業員よりも三〇分ないし一時間遅かつたし、就業時間も必ずしも一定していなかつた。)、これに対する作業上の指図は、正規従業員に対する場合と同じく室長から直接なされていたこと、

以上の各事実が一応認められる。

判旨右認定した事実によれば、相手方はセンターから派遣校正員等の供給を受けるについて各個人には着目せず、単に員数として取扱つており、その採否や報酬等を決定する立場にはなかつたのであるから、センターと派遣校正員たる抗告人らとの間には、抗告人らが相手方においてその指図の下に校正等の業務に就労し、センターがこれに対し報酬を支払うことを内容とする契約関係が存在し、抗告人らは右契約に基づいて相手方において校正等の業務に従事したものと解される。従つて、本件のような場合に、抗告人らと相手方との間に直接の労働契約を成立させる黙示的な意思表示があつたものと認めることはできない。

二抗告人らは、明示・黙示の合意に基づく契約関係が存在しなくても、事実上の使用従属関係、すなわち出張校正員が会社の企業組織に組み込まれ、会社の指揮命令を受けて就労する状態があれば、そのような関係があるが故に法的にも相手方と出張校正員との間に労働契約関係の成立を認めるべきであると主張するけれども、前記認定のとおり、出張校正員たる抗告人らが相手方会社の企業組織に組み込まれ、会社の指揮命令の下で拘束を受けて就労する状態があつたと認めるに足りる資料はないから、抗告人らの右主張はその前提を欠き、採用の限りでない。

三以上の理由により、抗告人らと相手方との間に労働契約が成立したことを認めることはできないので、その余の点について判断するまでもなく、抗告人らの被保全権利は認められないことになる。

そうすると、抗告人らの本件仮処分申請を却下した原決定は、その理由は異なるが、結局正当として是認することができ、本件抗告はいずれも理由がないから棄却することとし、民訴法八九条、九三条、九五条を適用して主文のとおり判決する。

(鈴木重信 井田友吉 高山晨)

賃金目録一、二〈省略〉

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